(2008年) 平成20年4月25日(金)
国際社会の中で生きる 〜「タテめし」よりも「ヨコめし」を!〜
自民党国際局での講演


 表記の題名で、自民党国際局主催の会で講演した。まず、「タテめし よりも ヨコめしを!」という題名について尋ねられる。

 日本人が海外へ駐在する場合に、仕事以外では、日本人同志でのみ付き合うことが多い。外交官ですらその傾向がある。ヨコめしとは横文字の言葉でしゃべりながら、ゴハンを食べ付き合いを深めよう、という意味である。日本語ばかりしゃべる付き合いはやめよう、との趣旨である。ヨコめしの付き合いから、多分日本人が不得意な情報収集もできるようになるのではないか。仲良くなることによって、相手にはっきりと自分の主張を述べることもできるのではないか。

 国際社会で生きるためには、主張すべきは、はっきりと主張する。つまり、明快に発言することが必要である。日本人は、何を考えているのかよくわからない、とのコメントが海外ではある。

 私は、大蔵省勤務時代に、大平大蔵大臣の通訳を度々務めた。大平先生の通訳をしたあと、相手国の大蔵大臣からよくほめられたものである。「今日の通訳は、言っていることがよくわかった」。決して私の英語力を誉めているのではない、と思う。大平先生の発言が意味明快だから、通訳がしやすかったのだ、と思う。大平先生は、言語不明瞭、意味明瞭と言われていたが、いかに言語が不明瞭であろうとも、意味明瞭であれば、英語に直し易い。逆に、言語明瞭、意味不明瞭と言われた竹下総理の場合はどうだろう。通訳は立ち往生したのではないか。

 しかし、明快な発言は、相手の神経を逆撫ですることもある。だからこそ、中和剤のユーモアが必要だ。

 1983年、鈴木内閣の渡辺美智雄大蔵大臣。「色即是空」という言葉が好きであった。9月のIMFワシントン総会でこの言葉を使った。同時通訳は、Color is sky;sky is Color―と訳したあと、What is form、form is emptiness;What is emptiness、Emptiness is form、―と訳した。その発言は、話題になったようである。10月に来日したサッチャー英首相が、この意味を質した。渡辺大臣は、自らの胸をたたき、「政治はハートだ」と答えた。サッチャー首相は直ちに否定した。自らの頭を指さし、「政治は頭脳である」と、主張。その夜、鈴木善幸首相主催の晩餐会で、渡辺大蔵大臣を見つけたサッチャーさん。―Oh,Minister Emptiness!と呼びかける。渡辺大臣は、すかさず「サッチャーさんはオレの財布がカラッポなのを知っているのだな!」と応じ、まわりは大笑い。

 国際社会の中には、ユーモアでくるみながら、言うべきことは、はっきり言うことが最も大切だ。更に、主張するためには、交渉術を身につけなければならない。何かにつけ理屈をつけて主張を貫徹する。「ダメなものはダメ」などと、どこかの政治家のようなことを言ってはダメ。負けなのである。アメリカでは大学で交渉術をすら教えている。

 歴史や文化、言語や習慣が異なる人同志の話し合いは、やはり明快な発言とユーモアの味付けが必要だ。日本にとって、今こそ、かかる人間を育てていくことが喫急の課題である。

 なお、その折の私の講演に対する反応の一つをここに、ご紹介申し上げておく。

WEB読者投稿

23日(水)国際局セミナーで、大野先生の講演を聴かせていただきました。
入室され、「ヤー、皆さんお忙しいところをどうも」の一声でその場の雰囲気を作り上げてしまう人間力、慈顔温容、古きよき自民党の伝統を感じました。
 ハイレベルな内容であるにもかかわれず、選挙区の車座集会のような雰囲気で、私のような不勉強の者でも緊張せずに聴くことができました。若さが持て囃される昨今ですが、「不安と不信の時代」に必要とされるのは、経験豊富で円熟味のあるベテラン政治家ではないでしょうか。
 大平元総理は発言がそのまま文章になるとのことですが、大平元首相はクリスチャンで、日中国交回復交渉の帰りの飛行機の中で、フランス語の原書の哲学書を読んでいたエピソードの持ち主、ニックネームが「鈍牛」。怒られるのを覚悟で、私の勝手な想像ですが、牛の特徴に「反芻」があります。大平元総理は、まず頭の中で文章を考える、ア〜ウ〜と口にしながら頭の中で推敲(和文英訳)、ア〜ウ〜と口にしながら頭の中で推敲(英文和訳)、それから発言、その結果正確な文章になる。
 ポンポンとリズミカルな言葉の応酬が流行してますが、歌舞伎、能、古典落語のやり取りも見直していいと思います。


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