(2006年) 平成18年8月22日(火)
再び靖国問題について考える

1. 戦争責任を論ずる場合、@戦争を始めた責任、A戦争のやり方の責任、B戦争を終らせる責任の三つに分けて論じてもよいと思う。

(1) まず、戦争を始めた責任であるが、歴史的に見てこれまでの戦争は国益を擁護するための戦争であった。従って、この戦争は絶対に「悪」であるとか「正義に反する」などの司法的判断を下すことはできない。そこにある判断は、歴史の眼による判断である。植民地的侵略戦争は、植民地時代が終った後は絶対に許されるものではない。国益を守るため始めてしまった戦争も、外交努力で国益を守りながら何とか戦争を回避できなかったのか、との反省は残るが、それが全て悪であり、正義に反するとは言い難い。1951年、マッカーサは、米上院軍事外交委員会で証言している。日本の戦争は、自衛・安全のためと語っていることを参考にしたい。
しかし、現在、そして未来の戦争は、これまでの戦争とは絶対違う。それは、2001年9月11日に始まった。ニューヨークの貿易センタービルを襲ったテロリストの攻撃である。ブッシュ大統領はこれを新しい戦争と呼んだ。名言である。テロリストは、明らかに国境を越えた人類に対する脅威である。人類にとっての共通の敵であるから、テロに対する戦争は、「国益」を守るための戦争ではなく、人類の生存を守るための「国際益」「人類益」を守るための「正義」の戦いであり、裁判で裁かれてしかるべきものである。言わば、これまでの戦争が「国益」のために戦われたとすれば、現在の戦争は「正義」あるいは「正当性」(legitimacy)によって戦われている、と断言しても過言ではない。

(2) 次に、戦争の遂行の仕方である。ナチス・ドイツが、ユダヤ人をガス室に送りこんだことをどう考えるのか。ポーランド人に対する残虐行為をどう考えるのか。「国益」を守るというよりも「人類」に対する極悪・非道な罪であろう。従って、ドイツに対する国際裁判は当然のことだ。
極東裁判は、@平和に対する罪、A殺人、B通例の戦争犯罪及び人道に対する罪、を訴えているが、これらはいずれの戦争でも問題としうるポイントである。

(3) 最後に、戦争を終結させる責任は、戦争を始める責任と同様に重いものがある。日本の場合、硫黄島や沖縄での戦いを振り返ってみるとき、なぜあの一歩手前の段階で敗戦を覚悟して、戦争をやめる勇気と決断が政治指導者になかったのか、が悔やまれる。特に、沖縄の「ひめゆりの党」に参拝し、硫黄島の戦没者合同慰霊祭に参列してそのことを思った。それは、戦争を長引かせて国際的にも迷惑を掛けたということもあろうが、戦争指導者に勇気と決断がなかったゆえに、自国民に対し多大な被害を与えた、という意味で猛省を要するところである。

2. 日本は戦後、平和国家として生きていくことを世界に宣言している。戦争につき、反省すべきは反省している。しかし、今、小泉総理の靖国神社参拝を契機として、第二次世界大戦におけるA級戦犯の問題が浮かび上がってきている。今、われわれは、この問題を抜本的に検討し、この60年前に終った第二次世界大戦に、外交上、精神文化上、真のピリオドをうたなければならない。

(1) 「国益」で戦われた戦争が、国際的に裁かれたことに対して、異論があることは当然である。しかし、これは歴史上の事実であり、この事実をサンフランシスコ講和条約で日本は受け入れた。少なくとも、戦勝国が敗戦国を裁くことには、歴史的に抵抗ができなかったことを受け入れなければならない。
しかし、サンフランシスコ講和条約11条については、「各国の理解がなければ刑の執行・管理ができない」というところにポイントがあり、刑の執行については、昭和33年までに戦犯とされたものは、死亡したか刑が執行されたか釈放されたかであり、裁判という法律の世界からすれば、前科者ではあっても全て戦犯という個人的な問題は終っていると判断する。もちろん、日本国として、戦争を行い、近隣国に迷惑を掛けた、という事実は残る。が、この問題とは国益のための戦争論、その戦争が問題はあるとしても、国際裁判で裁かれ、戦犯個人の刑は終了したとの議論に戻る。
ただし、精神文化的に考えて、十分注意をしなければならないことがある。それは、日本では「死者に鞭打つ」という言葉で理解できるように、どんなに悪人であっても、死ねば善人となるのであるから、死者に鞭打ってはいけないのである。これに反して、中国や韓国の文化は、悪人は死んでも悪人であるから、「死者に鞭打って何が悪い」となるのではないか。このような精神文化の違いを十分に理解しておくことも必要である。

(2) 最も大切なことは、日本人自身が、あの大戦を総括すべきことである。特に、なぜ、あの大戦を早く終結させなかったのか。戦争指導者の国民に対する罪である。このことを、今こそ十分検証し、日本人自身がA級戦犯問題、これから派生してくる総理大臣の靖国参拝問題に終止符を打たねばならない。

靖国神社問題は、国際問題ではない(ただし、遊就館が送るメッセージについては、靖国神社は反省すべき)。国内問題である。日本人自身の問題である。




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